東京地方裁判所 昭和47年(ワ)3400号 判決
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【判旨】
一原告が昭和三七年五月二四日ころ、三枚のマイラーフイルム上に書かれたいわゆる本件地図を完成したことは、当事者間に争いがない(もつとも、本件地図の具体的内容については、当事者間に見解の相違があること、前記事実欄記載のとおりである。しかしながら、その相違点は、本件地図全体からみれば、些細なものにすぎず、これを確定しなくとも、本件の判断にはなんらの支障も来たさないこと、後述のとおりであるから、この点の検討は措くこととする。)。
二ところで、原告の本訴各請求は、いずれも、原告が本件地図を著作し、著作権及び著作者人格権を取得したことを前提とするものであるから、まず、原告による本件地図の作成が著作権法上著作行為といえるか否かについて検討すべきところ、本件全証拠によるも、請求の原因二1、2(ただし、前項記載の事実を除く。)及び4の各事実を認めることはできない。
かえつて、<証拠>を総合すれば、前記請求の原因に対する認否二1、2及び4において被告らが主張する各事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中これに反する部分は信用しない。そして、右認定事実によれば、被告会社は、本件地図の作成にあたり、これを企画し、その従業員制が被告会社の業務として、種々調査を重ね、資料を収集し、記載項目も細部にわたつて取捨選択したうえ、その記載方法についても、数多くの資料を提供して、枝葉末節に至るまでことこまかく具体的に指示しているのであり、かつ、本件地図が被告会社の著作名義により公表されるべきものであつたことは本件口頭弁論の全趣旨によつて明らかであるから、いわば通常の編集地図にすぎない本件地図を著作したのは被告会社というべく、原告は、著作者たる被告会社の指示に基づき、単に製図家として製図作業に従事したにすぎないものというほかはない。
もつとも、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件地図の作成にあたり、文字の位置、字隔、字列、文字の巧拙、線の太さ、さらには海岸線の凹凸など厳密には縮尺どおりでなく、あるいは誇張して表現するところの、専門的には総描といわれる技法の採否等、極めて具体的な場面においては、相当の経験を積んだ製図家として、出来上りのきれいな地図を完成すべく、製図上あれこれ工夫をこらした点も認められないではない。しかしながら、原告がした、かかる工夫は、一例をあげれば、模写を業とする者が、限りなく原画に近似した、あるいは出来上りのきれいな模写画を得ようとして払う技術上の工夫努力等に類するものであつて、そのこと自体はそれ相当の価値を有するものではあるが、その表現において創造的要素がみられないか極めて稀薄であるというべきものであるから、原告がした前記工夫をもつて、著作権法にいわゆる思想又は感情の創作的表現行為ということはできない。
要するに、原告が本件地図を著作した旨の、原告の主張は、これを採用することができない。
三そうすると、原告の本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、全部理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)
〔請求の原因〕
一 原告の経歴
原告は、昭和一三年三月東京物理学枚本科を中退して入営し、陸軍参謀本部陸地測量部製図科において、陸軍技手として、地図の製図に従事したが、昭和一九年七月に同陸地測量部教育部を卒業し、その後は、支那派遣軍総司令部において、陸軍技官として、作戦地図の作成にあたつた。
終戦後は、日本測量株式会社及び米国極東陸軍地図局に勤務し、地図の製図を行なつたが、昭和二四年に測量士試験に合格したのちは自立し、編集地図の作成を続けてきた。昭和四二年一〇月以降は、各種学枚である中央工学校において、地図投影法、地図編集及び地図製図の講師をしている。
二 原告の著作行為
1 原告は、昭和三六年九月ころ、被告日地出版株式会社(以下「被告会社」という。)から、B3判大のケント紙四枚に分描された黒一色の総世界全図(附図の全くないもので、乙第一号証の原図にあたる。以下「本件原図」という。)を資料として渡され、それに基いて、「現代世界総図」と題する縮尺率四〇〇〇万分の一、B1判全紙大の世界地図を製作するよう依頼された。
「現代世界総図」の製作を依頼された際、被告会社から交付された資料は、本件原図のみであり、他になんらの資料も指示もうけていない。
2 その後も、「現代世界総図」の記載内容、記載方法等については、被告会社から、なんらの資料も指示もうけなかつたので、原告は、乾湿等自然環境の変化にともない伸縮しやすいケント紙の欠点を避けるため、B1判全紙大の無伸縮性ポリエステル樹脂フイルム(マイラーフイルム)に製図することとし、予め縮尺率四〇〇〇万分の一、メルカトール図法による経緯線網を右フイルム上に製図したうえ、すでに甚だしく伸縮していた本件原図の地形を経緯線網毎に修正して、その誤差を全面に配賦するようにし、また、それ以外の数多くの手持ち地図をも参照して、自己の判断で記載内容にも変更を加え、海岸線や種々の地形も適宜修正して、製図した。その際、原告は、海岸線、河川、海洋、空路、経緯度線及びこれらの名称等は青色に、国境、国名、首都、航路等は赤色に、鉄道、都市、山岳名、州名、島名等は黒色に夫々印刷するため、各色毎に、三枚のマイラーフイルムに地図を書きわけることとし、昭和三七年五月二四日ころこれを完成した(これらマイラーフイルム上に書かれた、この時点における三枚の地図を、以下「本件地図」と総称する。)。
3 本件地図の基本的内容は、甲第三号証の一ないし三記載のとおりである。
4 原告が被告会社からその製作を依頼された「現代世界総図」は、B1判全紙大の紙に製図された一枚の世界地図であるから、その用途も当然広く、あるいは学習用に、あるいは業務用に、さらには室内装飾用にまで使用されることを考慮し、原告は、一般人にとつて見易い地図を製作することに心がけ、種々の工夫をこらした。その結果、本件地図には、本件原図に比較し、次の諸点において、原告の思想又は感情が創作的に表現されている。
(一) ポリネシア、ミクロネシア及びメラネシアの各地域、境界線を、みずから資料を集めて決定し、太平洋における民族分布地域、境界線の表示をした。
(二) オセアニア(北端ハワイ、南端ニユージーランド、東端マーケサス諸島、西端オーストラリアによつて囲まれる太平洋地域)に散在する島嶼の位置、名称を、できるだけくわしく表示した。とくに、太平洋戦争当時の激戦地として、新聞紙上をにぎわせた島嶼は、つとめて表示した。
(三) 時間帯の表示については、日本明石市(東経一三五度)を正午として、西方の昼間を明色とし、東方の夜間を暗色にした。
(四) 地図上の文字の大きさ、色彩及び書体については、一般に、主要な事項は遠くからみても発見しやすいように工夫した。
すなわち、大洲名は、影付きかご文字で、字大を六ミリに統一し、海洋名は、青色明朝傾斜体で、字大を六ミリとし、国名は主要国については四ミリ赤色ゴシツク体とし、非主要国については字大を二ないし三ミリとした。
また、山脈は三ミリ黒色フアンテル体(横が太く、縦が細い字体)、高原、砂漠、地方名及び州名は三ミリ黒色明朝体、半島及び島は黒色明朝体で、字大を二ないし三ミリとし、河川及び湖は青色明朝傾斜体で、字大を2.5ミリないし3.5ミリとした。
(五) 文字を記載すべき周囲の情況に応じ、文字の大きさ、配置、間隔等に工夫をこらした。例えば、(1) できるだけ、経線、緯線、河川、境界線、鉄道、空路等の両側にまたがつたり、それをカツトしたりしないように配置すること、(2) 二つ以上の記載事項が重なつたり、交叉したりしないようにすること、(3) 文字が海岸線、湖等にかからないようにすること、(4) 本流と支流との区別を明確にするため、支流名の字大を小さくし、かつ、字隔をつめること、(5) 都市の大小に応じ、都市名の字大に変化をもたせること等に配慮し、読み易くしたところは、百数十箇所にのぼる。
(六) 景観の省略及び誇張等にも工夫をこらし、河川は河口幅三キロ以上のもののみを、湖水は周囲一二〇〇キロ以上のもののみを選択表示し、繁雑にすぎる場合は、支流、湖、湖名、都市、都市名を二十数箇所にわたつて省略した。また、必要に応じ、海岸線の屈曲を多くして、その地形の特徴を表示し、経緯線に対する関係位置を変える等百数十箇所にわたり修正を施した。
(七) 本件地図には、その下部に、「ヨーロツパ主部」「北極地方」「南極地方」及び「北アメリカ主部」の四枚の附図を作製掲載した。しかして、「ヨーロツパ主部」及び「北アメリカ主部」は、縮尺率一七〇〇万分の一、ボンヌ図法により作図して、面積及び距離の比較を容易ならしめ、かつ、前者にはアフリカの一部を取り入れて、地中海沿岸地域を明確にし、人文学、地理学研究の一助にした。「北極地方」及び「南極地方」は、正主距方位図法により作図し、南極大陸における世界各国の基地を、みずから調査して位置を確定し、赤点で表示した。
5 かくして、本件地図は原告の著作物というべく、原告は、これを著作したことにより、本件地図に対する著作権(以下「本件著作権」という。)を取得した。
三 被告らの著作権侵害
1 被告藤井章生(以下「被告藤井」という。)及び同山本義彦(以下「被告山本」という。)は、共同して、昭和四五年八月ころ、「週刊アルフア大世界百科」なる週刊分冊形式の百科事典の刊行を開始し、毎週一分冊ずつの発行を続けているのであるが、昭和四六年一一月三日発行の「アルフア」第五九号及び同年一一月五日発行の同第三号(甲第二号証の一、二)に、それぞれ、みずから印刷した「現代世界総図」と題する世界地図を折り込んで販売した。
しかして、右世界地図は本件地図にその後の経年変化にともなう修正を施したもの三枚(乙第六号証の一ないし三。以下「本件原版」という。)を、一枚の地図に重ね刷りしただけのものであつて、著作物としては同一のものということができる。
2 被告会社は、昭和四六年八月二六日、被告藤井及び同山本に対し、対価を得て本件原版を貸与し、同被告らの前記行為を幇助した。
3 かくして、被告ら三名は、共同して原告の本件著作権を侵害したものというべきところ、被告らには、この点につき次のような過失があつた。
すなわち、被告らの複製にかかる世界地図には、製図者として原告名が明記され、版権所有者として被告会社名が記載されているのであるから、被告らのように出版を業とする者としては、右地図の出版にあたり、当然に、著作権者が誰であるかを十分に調査確認したうえ、真の著作権者の許諾を得るべきであるのに、被告らは、かかる注意義務の履行を怠つた。
4 そこで、原告は、被告らに対して、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭、すなわち、いわゆる印税の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができるところ、地図の出版業界においては、印税率は販売定価の五パーセントとするのが通常である。そうして、被告会社出版の現代世界総図の定価は一部金二〇〇円であり、前記「アルフア」第五九号及び同第三号は、いずれも二〇万部ずつ合計四〇万部出版された。
そうすると、原告が被告らに対してその賠償を請求しうる損害の額は、前記地図の単価金二〇〇円の五パーセントに相当する金一〇円に、発行部数四〇万を乗じて得られる金四〇〇万円である。
四 被告らの著作者人格権侵害
1 被告藤井及び同山本は、前記「アルフア」第五九号及び同第三号に折り込み頒布した前記現代世界総図を複製するにあたり、B1判全紙大の本件原版をそのままの大きさで複製せず、ほぼA1判大の大きさにしたために、実際の縮尺率は五三一九万分の一になつたにもかかわらず、本件原版中「縮尺率四〇〇〇万分の一」なる記載を無修正のまま再製した。よつて、同被告らは、著作者たる原告の意に反して、本件地図に変更を加え、同一性保持権を侵害した。
2 被告藤井及び同山本には、右同一性保持権の侵害につき、前記三3と同一の過失があつた。
3右被告両名の同一性保持権侵害行為により、地図学者としての原告は、甚大な精神的苦痛を味わつた。これを慰謝するためには、右被告両名に連帯して金二〇〇万円の慰謝料を支払わせるのが相当である。
五 よつて、原告は、被告藤井及び同山本に対して、著作権侵害による損害金四〇〇万円及び同一性保持権侵害による慰謝料金二〇〇万円合計金六〇〇万円並びにこれに対する本件不法行為の後である昭和四七年五月九日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告会社に対しては、著作権侵害による損害金四〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後である昭和四七年五月九日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔請求の原因に対する認否〕
一 請求の原因一の事実は知らない。
二 同二の事実について
1 同二1の事実は否認する。被告会社は、昭和三六年九月ころ、原告に対して、「現代世界総図」の製図を依頼したことはあるが、地図の製作を依頼したことはない。そもそも、地図の製作編集は、被告会社の専門とするところであつて、いまだかつてこれを他に依頼したことはなく、また、その必要もなかつた。ただ、その当時、かつて被告会社に勤務したことのある柴田よしえ(旧姓)から、同女の夫である原告に何か製図の仕事をさせてくれと懇請されたので、被告会社は、原告に対し、一製図家として、「現代世界総図」の製図を依頼したものにすぎない。
しかして、被告会社は、右製図の依頼にあたり、原告に対して、次のような原稿の交付及び指示を行なつた。
(一) 本件原図のみならず(これは、右依頼時前すでに交付されていたかもしれない。)、従来被告会社が「現代世界総図」の題号のもとに製作販売してきた地図(乙第一号証)及びこれに増補、追加、修正等を施すべき事項を具体的、かつ、詳細に書き込み、さらに符号や文字の大小も指定記載した地図原稿(乙第二号証)を交付し、これらに基づいて製図するよう指示した。
(二) 世界総図の左下部分には「ヨーロツパ主部」の、右下部分には「北アメリカ主部」の切図を入れることとし、被告会社の出版にかかる卓上世界分図中「ヨーロツパ主要部」(乙第三号証の一、二)及び新制社会科地図中「北アメリカ主部」(乙第四号証の二)に、増補、追加、修正等を施すべき事項を具体的、かつ、詳細に書き込んだものを、原稿として交付し、また、世界総図の下部中央には南北両極地方の円形切図を掲げることとし、被告会社の出版にかかる両極の円形地図に、増補、追加、修正等を施すべき事項を具体的、かつ、詳細に書き込んだものを、原稿として交付し、それらに基づいて製図するよう指示した。
(三) 世界総図の左右両端における経緯線及び航路、空路の接続関係を明確にするために被告会社が作つた図面(乙第五号証)を原告に交付し、そのとおりに製図するよう指示した。
(四) 本件地図の具体的製図方法としては、地図印刷の便宜を考慮し、藍、赤及び墨色用の三葉のマイラーフイルムに製図すべきこととし、各葉に記載すべき事項を厳密に定めたうえ、原告にマイラーフイルムを交付して、三葉に書き分けるよう詳細に指示した。
原告は、これら被告会社の指示にしたがつて製図することを確約し、製図作業に着手した。
2 同二2の事実中、原告が昭和三七年五月二四日ころ本件地図を完成したことは認めるが、その余の事実は否認する。
すなわち、原告が本件地図を三葉のマイラーフイルムに書き分けたのは、すでに主張したとおり、被告会社の指示によるものであり、その記載内容及び記載方法も、全般にわたり、枝葉末節に至るまで、被告会社が提供した原稿と指示に基づくものである。
そのために、被告会社は、本件製図を依頼したのちも引き続き、原告に対して、被告会社発行の「新修世界地図」中所要部分(乙第九号証の一ないし五)、帝国書院発行の地図及びパーソロミユーの「ジ・アドヴアンス・アトラス・オブ・モダン・ジオグラフイ」中カナダに関する部分(乙第一〇号証)等の原稿を交付し、また、必要に応じ、その都度具体的に製図事項を指示したこともあり、原告から製図事項につき説明を求められて回答したこともある。
また、昭和三六年一二月には、原告が製図した三枚のマイラーフイルムを提出したので、被告会社は、以後四回にわたつて厳密な校正を行ない、各回毎に、一枚の紙面に三枚のマイラーフイルムを重ね焼きし、それに校正事項及び新たな追加変更事項を具体的に記入した校正地図原稿(乙第七号証の一ないし四)を交付して、詳細な指示を与えた。原告がこれらの指示にしたがつたことは、いうまでもない。
3 同二3の事実は否認する。
本件地図が昭和三七年五月に完成したことは、原告主張のとおりであるが、被告会社は、本件地図にさらに経年変化その他の補修追加をして、昭和三七年一〇月に「現代世界総図」新版として発行し、その後も同年一二月、翌三八年二月、四月、七月、一一月に、その内容に少しずつ補修追加をして発行を重ねた。原告主張の甲第三号証の一ないし三は、昭和三八年七月又は一一月に被告会社が発行した「現代世界総図」を、原告が試みに三色に分描したものにすぎないのであつて、その内容は、本件地図とかなり相違する。本件地図は、むしろその最終原稿たる乙第七号証と同一とみるべく、甲第三号証の一ないし三と乙第七号証との間には、別紙対照表記載のとおりの差異がある。
4 同二4の事実も否認する。被告会社が原告に交付した原稿は、本件原図にかぎられず、その指示も、記載内容及び記載方法の全般にわたり、枝葉末節にまで及んでいることは、上来主張してきたとおりであるから、本件地図と本件原図とを対比し、その相違点をもつて、原告の創作にかかるものといえないことは、明らかである。また、指示された内容を紙面等にそのまま表現するという、純粋な意味での製図行為は、本来機械的作業にとどまるのを原則とするから、かりに原告が本件地図を製図するにあたり、製図技術上製図者としての原告の個性が多少表われたとしても、これをとらえて、原告の思想又は感情の創作的表現ということはできない。
5 かくして、本件地図は被告会社が著作したものというべく、原告は、著作者たる被告会社の指示にしたがい、単に製図という機械的作業を担当したにすぎないから、本件著作権を取得すべきいわれはない。
三 同三の事実について
1 同三1の事実は認める。
2 同三2のうち、被告会社が被告藤井らに対し対価を得て本件原版を貸与したことは認めるが、そのことが被告藤井らの原告に対する不法行為を幇助したことになる旨の法律上の主張は争う。
3 同三3のうち、被告らの複製にかかる世界地図に、製図者として原告名が明記され、版権所有者として被告会社名が記載されていることは認めるが、その余の点は争う。
著作者は著作権の権能の一部として出版権を保有しており、著作者がみずから著作物を出版する場合に、その出版物上に「版権所有」と記載する慣行が、古く出版条例以来、かなり普及しているのが実状である。著作権者が別に居り、その著作権者から出版権を設定され、または出版契約を締結して、出版をする場合にだけ、「版権所有」と記載するわけではない。他方、本件世界地図に製図者として原告名が記載されているのは、原告の製図の労をたたえる意味も含めて、原告が本件地図を製図した事実をそのまま記録しただけのことであつて、原告が本件地図につき著作権を有しないことは、その記載自体から明らかである。また、被告藤井及び同山本は、本件地図について、右の記載内容及び被告会社の説明により、著作権が被告会社に存するものと確信して疑わなかつたものである。したがつて、被告らに原告主張のような過失はないものというべきである。
4 同三4のうち、被告会社出版の現代世界総図の定価が一部金二〇〇円であることは認めるが、その余の点は否認する。
四 同四のうち、被告藤井及び同山本が、現代世界総図を複製するにあたり、B1判全紙大の本件原版をそのままの大きさで複製せず、ほぼA1判大の大きさにしたために、実際の縮尺率が五三一九万分の一になつたにもかかわらず、本件原版中「縮尺率四〇〇〇万分の一」なる記載を無修正のまま再製した事実は認めるが、その余の点は否認する。
五 同五の主張は争う。